過保護な彼にひとり占めされています。



コツ……とヒールを鳴らしフロアへ入ってきたのは、黒いパンツスーツ姿で手にはベージュのトレンチコートを持ったひとりの女性。



背は名波さんより少し低いくらいだろうか。すらりとしたスレンダーな体型に、パーマのかかった茶色いミディアムヘアをしている。

センターで分けた長い前髪からのぞく顔は、アーモンド型の大きな目に濃いめのマスカラと、どちらかというとギャルっぽい見た目の人だ。



おぉ、美人……!



「初めまして、本社経理部の成宮翠です」



よく通るハキハキとした声で挨拶をすると、彼女はぺこ、と頭を下げた。

なんだか仕事のデキる美人、って感じだなぁ……。自分とはまるで真逆なその雰囲気に、「ほぉ」と小さな声が漏れた。



「あれ……翠?」



その時、響いた小さなひと言は、たった今名乗ったばかりの彼女の名前を呼ぶ声。

その声に横を見ると、隣に立つ相葉は驚いた様子で彼女を見ていた。



え……?『翠』、?



「あっ……弘臣!久しぶりー!」



相葉のその声に対し、彼女は相葉へぱぁっと明るい笑顔を向ける。



『弘臣』、って……『久しぶり』、って、知り合い?

驚く私や皆をよそに、成宮さんはカツカツとヒールを鳴らし相葉へ駆け寄った。



「お前、他の会社に就職したんじゃなかったのか?どうしてここに?」

「一回就職したんだけど……すっごいブラックでさぁ。耐えきれなくて辞めて、中途でこの会社入ったんだ」



「やっぱりこの部署にいたんだ」と笑顔で言う成宮さんに、相葉も驚く半面嬉しそうに笑った。

そんなふたりに、私と同じく驚いていた名波さんは問いかける。



「なになに、ふたりって知り合い?」

「あ、はい。大学の同級生で、学生の頃よく皆で遊んだりしてたんすよ」



同級生……。

メイクが濃いめなせいか一見キツそうな見た目をしているものの、にこにこと愛嬌のある彼女は名波さんに「そうなんです」と頷き、またすぐ視線を相葉へと戻す。


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