過保護な彼にひとり占めされています。



成宮さん、か……。

美人でスタイルよくて、明るい人だったなぁ。相葉ともすごく仲が良さそうで、触れたりして……あぁまた、心の奥が痛い。



『翠』、『弘臣』、その呼び名ひとつにもふたりの距離の近さを感じられる。





「……はぁ、」



やってきた給湯室で、ひとりコーヒーを淹れながらこぼれたのは小さなため息。

目の前のコーヒーメーカーに、ドリップした滴が落ちるたびに濃いいい匂いが漂う。



「村本」



すると突然呼ばれた名前に、ドキッと心臓が音をたてた。

振り向けばそこにいたのは相葉で、わざわざ後を追いかけてきたらしい。狭い給湯室のドアから中へ入ってくる相葉を、一度だけ見てすぐ視線をコーヒーメーカーに向けた。



「なにか用?」

「用っていうか……翠とのこと、本当なにもないただの友達だから」



彼女とはなにもない。ただそれだけを言うために追いかけてきたのだろうか。

……別に、私には関係ないのに。そう、相葉が成宮さんとただの友達だろうと過去になにかがあろうと、私には関係ない。

そう思うのに、引っかかる心はなによりも正直だ。



「……美人でいい人そうだよね、成宮さん」



ぼそ、とつぶやいたひと言に、相葉は躊躇いなくうなずく。



「あぁ、うん。いい奴だよ。はっきりしてるから敵も作りやすいんだけどさ、堂々としてて、出世できるタイプだと思う」



学生時代を思い出しているのか、おかしそうに笑うその顔に、先ほどより一層鋭いものが胸にチクリと刺さった。



なに、その顔。

見慣れているはずの笑顔。けれどそれが特定のひとりに向けられているというだけで、まるで知らないものに見えた。



「……へぇ、本当仲いいんだね」



ぼそ、とつぶやくひと言。



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