いつか晴れた日に
遮っている視界の前で何かが動いた気配がした。

「これ使って?」

そんな声に顔を上げると、目の前に上品なチェック柄のハンカチが差し出されていた。

「大丈夫、綺麗だから」
冗談交じりに黒崎くんが微笑む。

「……ありがと」

戸惑いつつもそれを受け取って目尻を押さえていると、黒崎君は優しい声色で言葉を続けた。

「何があったか知らないけど、今は仕事を頑張ろう?話は、定時後なら幾らでも俺が聞くからさ」

「うん……」

話をするといっても、何をどう話せばいいのかわからないし、話したところで信じてもらえないと思う。

だけど、黒崎くんの優しさが心にすっと沁みていくのを感じていると、不思議と気持ちが落ち着いていく。

人の優しさって温かいなと思いながら
ギュッとハンカチを握りしめて「洗濯して返すね」とわたしも笑った。


午後からも、黒崎くんに仕事内容を説明しながら通常業務をこなしていく。
いつもより倍の時間がかかってしまうけど、久しぶりに笑顔になれた気がした。

黒崎くんは話を聞くと言ってくれたけど、やっぱり言うべきじゃない。

チラリと時計を見るともう定時を過ぎていた。今日はこのまま帰ってしまおう。

「じゃ、今日はここまで。後は報告書を書いて美香さんに提出して帰ってください」

「わかりました」

「あ、その前にパソコン借りてもいいですか?メールをチェックしたいので」

「どうぞ」

立ち上がった黒崎くんと席を入れ替わる。

メールボックスを開くと数件のメールを受信していた。

< 102 / 159 >

この作品をシェア

pagetop