いつか晴れた日に
「もうすぐ着くから」

自分に言い聞かせるように呟いた。
家に着いたら、何も考えずに眠ってしまおう。そして、嫌なことは忘れる。

そのつもりが……。


「お邪魔します」

「ど、どうぞ」

送ってもらった手前、半分社交辞令で「お茶でもどうですか?」と言うと、黒崎くんはあっさり「うん」とタクシーから降りてきた。

そうなると、断るわけにもいかなくて。自宅に招き入れることになってしまった。

黒崎くんを部屋に通して、テーブルの上の雑誌をさっと片付けた。

「えっと、適当に座ってて?」

「うん」

昨日、掃除しておいて良かったとホッと息を吐く。
いつもの状態だったら、とてもじゃないけど、部屋に上げることなんて出来なかった。

「コーヒーでいい?」

「何でもいいよ」

黒崎くんをテレビが一番見やすい席に座らせて電源を入れると、わたしはお湯を沸かす為にキッチンへ向かった。

「具合悪いのに、ごめんね」

リビングから、黒崎くんの声が聞こえた。

それに「ううん」と短く答えて、棚からマグカップを取り出した。

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