いつか晴れた日に
涼のことを彼氏と言っていいのかわからない。

涼はわたしのことを覚えていなかったから。

だけど、これだけは、はっきりと言い切れる。

「彼氏じゃないけど、わたしの大切な人です」

そう、涼は今も昔も、わたしの大切な人だから。何があっても、もう涼の傍を離れたりしない。


翌日、わたしは退院することになった。

涼も集中治療室から一般病棟に移されたみたいだ。

会社に事故の連絡を入れて状況を説明する。詳細は月曜日に、もう一度報告することになった。
退院する時に、涼の様子を見に行ったけれど、やはり眠ったままだった。

でも、どうしてだろう。少し口元が笑っているようにも見えた。
楽しい夢でもみているのかもしれない。その夢の中に、わたしも居れたらいいな。

涼が好き。
一日でも早く、この気持ちを伝えたいよ。


出社すると、真っ先に美香さんがわたしの元にやってきて、心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。

「もういいの?無理をしなくてもいいのよ?」

「はい、ありがとうございます。わたしは、大丈夫です。でも、黒崎くんが……」

「まだ意識が戻らないんでしょう?」

「……はい」

「心配だわ」

美香さんも神妙な顔で項垂れる。

「午後から、課長とお見舞いに行ってくるわ。安西さんも無理はしないで、今日は定時であがってね」
「はい」

「安西さん、ちょっと」

返事をしたところで課長に呼ばれ、今と同じ話を繰り返す。

わたしも仕事が終わったら、涼の顔を見に行こう。そう思いながら、自分の席についた。




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