いつか晴れた日に
病室を出て行こうとしたときだった。

『……怜奈ちゃん』

「えっ?」

涼の声が聞こえたような気がして、慌てて振り向いた。

だけど……。
ベッドに横たわる涼は、やっぱり眠ったままだった。

落胆を誤魔化せずに、フッと短く息を吐く。
空耳なんて。少し疲れているのかな?

最近、仕事も忙しいし。考え事をしていて、寝つきが悪い所為かもしれない。
今日は、ゆっくりお風呂に入って、なるべく早めに寝ることにしよう。

「涼、また来るね」

もう一度そう言って、病室のドアを横にスライドさせた、そのときだった。

『怜奈ちゃん』

今度は、はっきりとそう聞き取れた。


「涼?」

驚きと期待と少しの不安を抱きながら、涼の傍に駆け寄った。
だけど、ベッドの中の涼は、魔法にでもかかっているように眠ったままだ。

あんなにはっきり聞こえたのに、また空耳なの?

「今、わたしの名前を呼んだよね?」

わたしは縋るような気持ちで、涼に声をかけた。

だけど、涼は、ピクリとも動かない。

「涼、起きて。お願いだから」

どうすれば、目覚めてくれるの?
涼の手を握り、軽くマッサージをするように刺激を与える。
それでも、反応はなかった。


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