いつか晴れた日に
「……キスしたら、起きてくれる?」
童話の中では、目を覚まさないお姫様にキスをすると呪いは解けて、ハッピーエンドになる。
涼はお姫様でもなければ、呪いがかかっている訳でもない。
それでも……。
「お願い、目覚めて」と願いながら、身体を屈めて、赤みの無いその唇にそっと口付ける。
冷たい唇に熱を移すように。
わたしの気持ちが伝わりますように。
どうか、神様。
涼をわたしに返してください。
すると、ピクリと涼の唇が震えたような気がした。
「り、涼?」
緊張で鼓動が激しく打ち鳴らす。
苦しくなる胸を押さえて涼を見詰めていると、長い睫毛が揺れながら、ゆっくりと持ち上がっていった。
濡れているような黒い瞳がわたしを見詰める。
息をするのも忘れて、わたしは涼の言葉を固唾を呑んで待っていた。
瞬きを三回繰り返して。
それから、涼は「怜奈ちゃん」と、嬉しそうに微笑んだ。
◆◇◆
退院が決まった日から、しばらくの間、涼はわたしの部屋で一緒に暮らすことになった。
わたしが、そうしたいと申し出たからだ。
涼は黒い瞳を丸くさせながら、「本当にいいの?」と嬉しそうに笑っていた。