いつか晴れた日に
池永さんに部屋に入るように促されて、戸惑いながら鍵を取り出した。

「ここで待ってるから、部屋の中を確認しておいで」

その言葉で、あの男、ストーカーのことが脳裏に蘇る。

「…………」

部屋の中でわたしを待っていたりしないよね?

「大丈夫、部屋には上がれないけど、ここにいるから」
池永さんは、わたしを安心させるように微笑んだ。

池永さんを玄関の中で待たせ、ルームライトのスイッチを押し、息を殺しながら自分の部屋に入る。

バスルームとトイレ、それからキッチンとベランダ。狭いワンルームを確認するのに時間は掛からない。


「どう?」

「大丈夫です。何も可笑しなところは無いみたいです」

「じゃ、俺は帰るから。何かあったら、いつでも電話して。いいね?」

「……はい」

どうしよう。池永さんが帰ってしまう。お茶ぐらい出した方がいいのかな?
でも、簡単に家に上げるなんて軽い女と思われる?

そんなことを考えていると、池永さんはわたしに一歩近付いて微笑んだ。

「戸締りには気をつけて」

「はい」

「じゃ、おやすみ」

そう言って、池永さんは身体を屈めた。


……え?

「おや……すみなさい」
呆然とするわたしから、何事も無かったように離れていく池永さん。

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