いつか晴れた日に
「俺、怪しい者じゃないよ?」
はぁ?
勝手に部屋に居ること自体、十分怪しいじゃないのっ!!
身体を壁際に寄せながら、枕を抱きしめる。何も無いより、少しはマシだろう。
「あ、あんた、だれ?」
「俺?……チビタだけど?」
……は?何を言ってるの?チビタって何?
「ふ、ふざけないでっ!」
わたしの頭の中はパニックで真っ白になった。
『チビタ』と言って心当たりがまったく無いわけじゃない。
だけど、それはわたしのゴク身近な人間じゃないと知りえないことで。
しかも、その身近な人間でさえ、そんな10年前のことを覚えているかわからない。
何故なら『チビタ』は、わたしが子供の頃に、一ヶ月だけ飼っていた黒い子犬の名前だからだ。
「と、とにかく、服を着てちょうだい。それから、帰って」
「俺、行くところないんだ」
「そんなの、わたしに関係ない」
「怜奈ちゃんは冷たいな」
そう言って、この男はふにゃりと笑った。