いつか晴れた日に
わたしと同年代の店員さんに抱かれた子犬がそっと手渡されて。

黒い毛の子犬を抱くと、その重みに懐かしさで胸が一杯になった。

ペットショップなんて、今まで一度も立ち寄らなかったのに……


ちょうどあの頃、わたしは心を閉ざして口がきけなくなっていた。

原因は両親の離婚。
三年毎に、環境が変わることが辛いのは、わたしだけじゃなかった。

母さんは恋人をつくり、わたしを置いて家を出て行った。

転勤が決まっていたのに、チビタを飼うことを赦してくれたのは、父がそんなわたしを可哀想に思ったからだろう。

だけど
チビタのお蔭で声が出るようになったわたしは、一ヵ月後には、また辛い別れを経験をすることになった。

初めから、わかっていたのにね。
子供のわたしは、泣いて父さんに頼めば何とかなると思っていたんだ。

チビタとずっと、一緒に居たかったよ。


涼が現れてからというもの、チビタと過ごした日々を思い出してしまうけれど。
涼がチビタだなんて、やっぱり信じられない。

結局のところ、涼の目的は何だろうと思う。

わたしをどうするつもりなの?

抱っこしているうちに待ち合わせの時間になってしまい、慌てて店員さんに子犬を返すと待ち合わせの場所に向かった。

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