Change the voice
しかし高2の芸術文化体験学習で、世界が一変した。

某有名演出家プロデュースのシェイクスピア劇で、梁玄太郎(りょう・げんたろう)さんの演技に一目惚れしたのだ。


そこから何とか三田と同じ大学には合格したものの、一年で休学、また一年で中退。

幸い両親は理解のある人達だったので、入学金の弁済のみを条件に、息子を放逐した。

とは言え、それはそれで過酷な生活を強いいられ、劇団養成所時代は死に物狂いで働いた。

居酒屋・コンビニ・ガソリンスタンド・ホスト……でも、面白いことにそれら全ての経験が自分の演技に生かされるのだと思うと苦ではなかった。


そんな俺をずーっと横目に見ていたのが三田だった。

食えない俺を破格の会費で合コンにつれ回すのは、学生時代から続くコイツなりの気の遣い方だったりする。


今日は『過春』のおかげでそれなりにまとまった給料が振り込まれていたお陰で、珍しく俺が自腹を切っている訳だが。(割カンだけど)



「アニメとかは?出てないの?」

「うーん……時々ちょっとガヤに呼ばれる程度かな」

「声優って言えばアニメって訳でもないんだな」

「そうだな……実際やってみると、かなり幅広いよ」


応えながらやっぱり自分には舞台への未練が残っていると自覚する。

声優業は多岐に渡り“役者”が求められるだけの仕事ではない――――。
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