Change the voice
まずマネージャーから渡されたのは辞書並みに分厚い台本と数枚のBLCD。

「とりあえずCD聴いてもらって――――桐原くん、BL初めてだもんね――――BLってものがどんなものか理解してもらって、台本はもちろん覚える必要はないけど、相手役が現場にいないから場面のイメージはある程度持って現場に入ってね。それから……」

常に忙しそうなこのマネージャーは、ジーンズの後ろポケットから取り出したメモ帳とボールペンを乱暴に俺に押し付けると、

「18禁用の名前、作るんなら今ここで書いて」

「……は?18禁……?」

「そうだよ。女性向けのアダルトビデオのゲーム版みたいなもんだから。別に桐原周也のままでもいいんだけど。実際18禁だからって名前使い分けずに演ってる役者さんもいるけどね。桐原くんの場合は今後も考えて適当に変えといた方がいいんじゃないかな?ほら、多岐川さんだと“高級おてもと”とか」

「はあ……高級……」

「それくらい適当でいいってこと!目に入った適当な単語並べて」

「え?!ええっと――――」


苛つきを増しているマネージャーに急かされて、並べた単語は――――


“塩麹玉子”


何故か事務室前のマガジンラックにあった主婦向けの雑誌の特集だった。


「お、いいねいいねーそれ。じゃあそれで先方に伝えとくから。現場の場所と住所はここね。遅れないように。あと挨拶しっかりして。よろしく~」


呆気に取られていると、入れ替わりに入ってきた事務所の先輩・芹澤創太さんに声を掛けられた。
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