1人ぼっちと1匹オオカミ(下)

「…婚約って、あなたはそれでいいんですか。私はあなたのことなんて何も」

「うん、知ってる。キミつい最近まで誘拐されてたんだろ?知らなくて当然」

「なら、どうして」

「僕は、あの会社の社長になりたいんだ」

「え?」

「そのためなら、だれでも愛せる自信、あるよ」

 血の気が引いたのが分かりました。でも、逃げる場所なんてどこにもなくて、ベッドの上に押し倒される。
 当然のように体の上にまたがってきたその人は、くすりと笑う。

「怖い?まぁ当然だよね」

「…やめて」

「う~ん。それは無理。だって、僕キミと子づくりしなきゃダメだから。この1か月内でね。1か月以内に出来なきゃ僕社長になれないし」

「…嫌だ」

「大丈夫、言ったでしょ?ちゃんと愛してあげる。体から愛し合うってこともあると思う」

「いや!いやぁあああ!!!」

 全部、嘘だって言ってくれればいいのに。
 早く、一刻も早く消えてくれればいいのに。

 その人はずっとずっといた。
 私が気絶していても、泣きわめいても関係なくずっとそこにいた。

 やっと帰ってくれた頃には私の体は赤い印で溢れていて、気持ち悪くてお風呂の中で泣き続けました。
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