1人ぼっちと1匹オオカミ(下)

 清牙さんはその後、晴野の携帯に録音されていたやりとりを再生した。

 依頼主の女の言葉に、思わず何も言えなくなってしまった。

 これを、直に言われた晴野はどれだけ傷ついたんだろう。
 あの公園に行くまで、ずっと我慢して、どうしてもっと早く気づいてやれなかったんだろう。

 後悔ばかりが心を支配して、何を言ったらいいのか分らなかった。

 しばらく誰も何も言えない時間が過ぎた。
 こうして、しばらくした後に、静かなリビングに漂う妙な殺気。

…殺気?

「え?…せ、清牙…さん…」

「いくら夫の連れ子だからと言って赤の他人?自分のためなら蓬がどうなってもいいと?…ふざけやがって」

「あ、あの…」

「ねぇ、清牙。こんな屑な動物以下の奴に蓬を返す必要なんてないわよね」

「も、も…さん…?」

 元族の総長と副総長。
 さ、殺気が半端ねぇ…。

 こんな2人を優しいと言える晴野は、よっぽどの強者かもしれない…。

 改めて、この2人を怒らせまいと心から誓った。
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