1人ぼっちと1匹オオカミ(下)
「晴野…」
神野くんのつぶやきにも似た声でこちらに顔を向けてきたスーツの人たちは、まっすぐに私に向かってきました。
「やぁ、はじめまして」
「…何がはじめましてですか?」
「あぁ、覚えていてくれたんですか。申し遅れましたが、事件の担当をさせていただいております、警視の関口と申します」
愛想笑いを浮かべながら名刺を差し出してきた人を睨み返してやりました。
私が家族と引き裂かれた日、お父さんに手錠をかけた人。
睨んでいるのに相手は飄々とした様子で、名刺を受取ろうとしない私を見つめてきました。
「あの、あんたら晴野に事情聴取しに来たんですよね」
間に割り込んできた神野くんはさりげなく私を背後に隠してくれて、雷斗くんも神野くんの隣に並びました。
関口と名乗った人はそこでようやく名刺を仕舞って、ニッコリと笑って見せた。
「えぇ、そうです。蓬さん、お付き合いいただけますか?」
「何も、あなたに話すことはありません」
この人は嫌だ。相手を蔑むかのような目。お父さんを連れて行った時から、ずっとその目は変わっていない。
そんな人にお父さんを任せられない。