1人ぼっちと1匹オオカミ(下)
傍聴席に入ると、そこには先に到着していたお母さんと剣人さん、そして父親と再婚相手の女性の姿もありました。
他にはマスコミの方が少しいらっしゃるくらいですね…。
適当な位置に座り、神野くんと雷斗くんはお母さんたちの傍に行きました。
「失礼?」
『はい?』
気づかれたかな…。
声をかけてきたのは父親です。
出方を窺っていると、父親は名刺を差し出してきました。
「私、大宮怜と申します。今回の事件の被害者の父親です」
『はぁ…』
「実は今、その娘が失踪しておりまして、裁判に出るように言いつけるつもりだったのですが…。もし、見かけましたら是非ご連絡のほどを」
『…なんで、いなくなったんすか?俺、あんま詳しくねぇけど、娘さんショックで部屋に閉じこもってたんすよね?シャッターまで閉めて』
「え、…えぇ、実は私たちが目を離したすきに…」
『人探しなら警察に頼んだ方がいいと思いますけど?』
「ええ、それはもちろん。探してはもらっています」
『メディア関係に頼んだらどうです?俺、知り合いいるんすよ』
「い、いえ結構。とにかく、見つけたらぜひ」
名刺を強引に押し付けて、父親はそそくさと席に戻って行きました。
それにしても、全く気付かないとは。
変装の技術を心得たみたいです。