1人ぼっちと1匹オオカミ(下)

「よも、何回も言っただろ?それは違う。殺すんじゃない」

「でも、ちゃんと産めたら、この子は生きていけるのに…」

「よも…」

 抱きしめてくれる剣人さんは黙って背を撫でてくれて、でも涙なんて出てこなくて、ただどうすれば正しいのか分からなくて、ずっと考えても出てこない…。


「…晴野、お前、お腹の子を愛せるか?」

「…え?」

「無条件に、全力で、愛してるって言ってやれるか?」

 パソコンを閉じた神野くんは、ゆっくりと立ち上がって目の前まで来ました。

 その目は悲痛で歪んでいて、剣人さんはそっと私たちの傍を離れていく。
 それでも、神野くんの目を逸らせませんでした。
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