1人ぼっちと1匹オオカミ(下)
「お前が…俺らが1番わかってるはずだろ。
本当の親に愛してもらえないのがどれだけ辛いか。
お前は、子どもを見て怖がらないと言えるか?成長した子どもにもしあいつの面影が見えても愛し続けられるか?
怖かったんだろ?ずっと泣いてたんだろ?」
「…」
「お前のお腹にいる子どもは、お前を苦しめた奴の子でもあるんだ。
その子を、一生愛し続けられると言えるのか?その子にあいつを重ねて苦しむことはないって言いきれるか?」
「…」
「降ろすのが、正解だって言えない。
でも、将来のことを考えたら、産むって言うのも正解だって言えない。
確かに、産んでみなきゃわかんねぇ。
でも、産んでからじゃ、遅いんだよ。
その子が晴野にとって、その子がいるのも、いなくなるのも苦しいのは分かる。
でも、俺は、お前がちゃんと笑って子どもに向き合えなくなるのが怖い。子どもが愛されなくなるのが怖い。だから、お前に産めって言えない」
「…かみや…くん」
「支えるって言えなくてごめん。守れなくてごめん。助けてやれなくてごめん。苦しませてごめんな。
…一緒に背負うから、お前の傍に一生いる。
だから、今は…」