【完】ある日、恋人を購入した。

そう言って、冷たく、スタスタと先を急ぐ。

その姿に、あたしは少しカチンときてしまって。


でも、カチンときたのも束の間。

またすぐに、あたしの中である“過去”が脳裏を過った。



“おにーさん…”

“知らない”



「…!」



それをまた思い出した瞬間に、あたしは思わずその場に立ち止まる。

…それはまだ、なかなか思い出せていない知らない過去。

思い出したいのに…今はもう、お手上げ状態で。


あたしがいつまでも立ち止まったままでいると、そのうちに尚叶くんがあたしの方を振り向いて言った。



「…友香?」

「…」

「どうしたの?」



そう言って、街灯の下で首を傾げる。

その瞬間、静かに降ってきた雪。


あたしは…

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