Ri.Night Ⅲ
「……ごめんね。ごめんね、陽」
再びあたしを強く抱き締める陽に何度も何度も謝る。
ここまで必死にあたしを引き止めようとしてくれる陽にあたしは何も応えてあげられない。何も言ってあげられない。
「……凛音、行こう」
傍に居た貴兄にそう言われ、「うん」と返事する。
離れようと陽の肩を軽く押すけど、陽の腕の強さは強くなるばかりで離そうとはしてくれなかった。
無言の抵抗が続く。
抵抗し続ける陽を引き離したのは、貴兄の一言だった。
「……宮原、俺はお前と喧嘩したくない」
「……っ」
「凛音を強く想ってくれるお前を殴りたくはない。凛音にも見せたくない。……意味、分かるよな?」
その言葉は、獅鷹総長の冷めた重低音の声ではなく、あたしに喋りかける様な優しい“貴兄”の声だった。
今までとは全く違う貴兄の声色に陽がそっと頭を上げる。
それと同時に抱き締められていた腕がするりと解かれ、だらんと力無く滑り落ちていった。
陽の哀しげな双眸があたしを見つめる。
「……もう、無理なのか?俺は、俺はずっと凛音と一緒に居たい」
陽は最後の問い掛けだとでも言う様に真っ直ぐあたしを見つめてそう言った。
曇りのない純粋なその瞳にズキンと胸が痛む。