Ri.Night Ⅲ


「リンくん?」


呆然としているあたしを不思議そうに見る妃奈。


だけど、あたしの意識はただ一点、あの女達だけに向けられていて。


目を逸らしたいのに、まるで縫い付けられたかの様に女達から目が離せない。



カツンカツンと床に鳴り響くヒールの音。


その音がどの音よりも鮮明に聞こえるのはあたしだけだろうか。



女達を引き連れて接近してくる店員さん。


どんどん近付いてくる気配に汗が吹き出る。


けど、女達は“あたし”という存在に気付きもせず、キャイキャイと甲高い声を響かせながらあたしの右側を通り過ぎていった。


それを見てホッと安堵の溜め息を吐いたのも束の間、あたしの後方でカタンと椅子を引く音が聞こえて、ビクッと身体が揺れ動いた。



……嘘でしょ?


女達が通されたのはあたしの真後ろの席で。


まさか真後ろの席に来るなんて思わなかったから、これからどうしたらいいのか分からない。



「リ……」

『………』

「え?」


妃奈の視線があたしの後方を捉えた瞬間、妃奈の表情がピシリと固まった。


あたしの後ろに居る女達が“あの”女達だと気付いたらしい。


今まで見せた事ない様な鋭い視線を女達に向けた妃奈が、直ぐにあたしへと視線を戻して泣きそうに唇を噛み締める。


心配そうにあたしを見つめる妃奈に小声で『大丈夫』と返すけど、それでも妃奈の表情は変わらなかった。

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