Ri.Night Ⅲ

「……っ、離し──」


それを振り払おうとした瞬間、握り締められていた手首を更に強く握られて、思いっきり後ろへと引かれた。


息を呑む程の力に身体が半回転し、前のめりに倒れていく。


「………っ」


倒れる!


そう思ってギュッと目を瞑ったけど、身体を受け止めたのは地面ではなくそれとは全く別の物で。


それが十夜の身体だと悟るのに、さほど時間は掛からなかった。



「とお──」


「凛音」


「………っ、」



甘さを控えたその切なげな声に息を呑む。


覆い被さる様に抱き締めるのはいつもと変わらないけど、抱き締める腕の強さは今までで一番強くて。


……っ、十夜……。


息が出来なくなるほど強く抱き締めるその腕に目頭が熱くなった。



「凛音」


耳元で切なげに囁くその声に、涙が零れそうになる。


「凛音……」


胸が、締め付けられる。



……っもう、嫌だ。


何でこんな事するの?

何でこんな気持ちにさせるの?


離れなきゃいけないと分かっているのに、何で閉じ込めた気持ちを無理矢理引き出すような事するの?



もう、ツラいの。


十夜の事を考えるのも、

声を聞くのも、

顔を見るのも、

触れるのも。


何もかもツラい。


これ以上十夜を好きになるのが……ツラい。



「凛音……」


だから、そんなに切なげにあたしの名前を呼ばないで。


期待、してしまうから。


有り得ない期待を抱いてしまうから。


そんな事、あるわけ無いと分かりきっているのに。

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