Ri.Night Ⅲ
そんなあたしの想いなんて知る由もない十夜は、更に深く身体を抱き寄せる。
腰に回された左手があたしとの隙間を埋めようと強く引き寄せて。
後頭部に置かれた右手の力が更に強まり、十夜の胸にグッと押し付けられた。
そして──
「凛音」
切なげな声と共に、耳にフッと吐息が触れた。
「十夜……っ」
もう、自制心なんて無くなってていた。
ううん。違う。
そんなもの最初から無かったんだ。
十夜に逢った時点で消え失せていた。
「十夜、十夜……っ」
十夜を抱き締めたいと思った。
自分の腕で抱き締めて、その温もりを身体全体で感じたいと思った。
言葉に出来ないこの想いを抱き締めて伝えたい。
そう思った。
だけど。
「……ごめんな」
その想いは届かなかった。
「……っ」
突然、十夜の腕によって引き離された身体。
抱き締め返そうとしていた両腕は十夜に触れる事なく宙を浮いていて。
その突然の行動に戸惑いの色すら浮かばない。
「振り向かずに行け」
状況が把握出来ていないところにぶつけられた別れの言葉でようやく引き離された事を理解した。
切なさの残るその力強い声と共に肩をトンッと押され、足が自分の意思とは関係なく勝手に歩き出す。