Ri.Night Ⅲ
何度その瞳に映りたいと願っただろう。
何度その瞳を求めただろう。
だけど、もうそんな事は思わない。
逢う度哀しくなるのはもう嫌だから。
“邪魔して、ごめんね”
そう口の動きだけで伝えると、十夜の瞳が微かに揺らいだ。
きっと伝わったんだと思う。
これでもう言い残した事はない。
一つ小さく息を吐いたあたしは、再び優音の手を引いて踵を返した。
遊大の元へ行くと、空いている左手をギュッと握り締めてきて。
その手に驚いて引っ込めようとすると、更に強い力で握り締められた。
……遊大、いいの?遥香さんが見てるよ?
そう言いたかったけど、あたしにはとてもじゃないけど言う事は出来なかった。
だって、見上げた遊大の表情は見ているこっちが哀しくなるほど哀しみに満ちていたから。
「凛音!!」
背中に突き刺さる十夜の叫び声。
今までなら、その声に振り返っていたかもしれない。
だけど、もう振り返らない。
「凛音!!」
「……っ、十夜!」
十夜の叫び声に紛れて聞こえる遥香さんの声にチクンと胸が痛む。
「凛音!!」
それ以上呼ばないで。
遥香さんが可哀想だよ。
「凛音!!」
……ねぇ、十夜は知らないでしょう?
好きな人が違う女の人の名前を呼ぶのってね、結構キツかったりするんだよ。
だから、呼ばないであげて。
──十夜、幸せになってね。