Ri.Night Ⅲ

これで十夜から逃げられる、そう思っていたのに……。


「……逃がさねぇ」


いつの間に体勢を変えたのか、横向きで転がっているあたしの上に十夜が覆い被さってきた。


「や、やだっ!」


鋭い双眸に見下ろされ、身体が自然と壁へと寄っていく。



「……凛音、逃げるな」


その切なげな声と共に頬へと添えられる手。


「やっ……!」


その手を見た瞬間、あの時の十夜の手を思い出した。


遥香さんの髪の毛に伸ばされた、あの手を。



「凛音」


「嫌だ。触らないで!触らないで触ら──」


「凛音……!」



あたしに触ろうとする十夜手を思いっきり首を振って回避する。



「嫌だ!触らないで!……なんで来るの!?なんであたしの前に現れるの!?なんで!!」



もう嫌だ。


なんで来るの?なんで触るの?

なんであたしを振り回すの?


必死に押し込めた想いをなんで無理矢理引き出させるような事をするの!?


十夜には遥香さんがいるじゃない!


身代わりのあたしじゃなくても本物の遥香さんがいるじゃない!



……もう嫌だよ。

身代わりにされるのはもう嫌だ。


遥香さんの存在を知った上で身代わりなんて出来る訳ない。


そんなにあたしは強くないっ!



「やだっ!!離して!!」


「凛音!」


「……っやだっ!……嫌い!十夜なんか嫌い!」


「……っ、」


「十夜なんか大っきら───」



なっ……。



「……んっ、」



突然、塞がれた唇。


振り払った筈の手はいつの間にか後頭部へと回されていて。


逃げようとするあたしの後頭部を強く引き寄せる。

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