Ri.Night Ⅲ
あたしが十夜を『好き』と言った……?
言ってない。そんなの言ってない。
そんなの言った覚えない!
「言っ──」
「……てねぇとは言わせねぇぞ」
「……っ、」
「覚えてねぇなら思い出させるまでだ」
俯いたあたしの顎を無理矢理上に向かせ、キスを落とす。
さっきより深いそのキスはあたしの脳を麻痺させるのに十分で。
身体がビクンと跳びはね、甘い痺れが脳から指先まで駆け抜けていく。
逃げようと身を捩れば、更に頭を引き寄せられて。
隙間から洩れる自分の甘い吐息に羞恥心が募る。
「凛音……」
それを煽るように十夜の左手が頬から離れていき、そっと右手に絡んだ。
………あ。
今、何かが頭を過った……?
手を握られた瞬間、確かに何かが過った気がした。
だけど、それが十夜の思い出せと言った事なのかは分からない。
あたしが十夜に『好き』と言った……?
思い出せない。
思い出せ……
「………ぁ」
絡んだ手をギュッと強く握られ、額に十夜の唇が落ちてくる。
その温もりは目尻、頬、耳朶、首へとゆっくり移動していき、最後に唇へと落とされた。
この、感覚……。
そっと触れるだけのキスは小さなリップ音を奏で、触れるか触れないか分からない程の距離で止まった。
戸惑いを感じながらもそっと目を開けると、漆黒の瞳が真っ直ぐあたしを見下ろしていて。
揺らぎないその瞳に当然の様に吸い込まれていった。