Ri.Night Ⅲ

「お前に、分かるか?」


「………っ」


「『好き』と言われてすぐ、目の前から居なくなった哀しみが」



とぉ……。



「やっと手に入れたお前が中田に拐われたと知ったあの時、」


「……」


「俺が、どんな気持ちでお前を捜したのか、分かるのかよ」


「………っ」



必死に絞り出す様なその苦しげな声に何の言葉も出ない。



「中田から取り戻せたと思ったら、他の男と一緒に去っていった。それを俺がどんな想いで見ていたか、お前に分かるか?」



言葉を吐き出す度、十夜の瞳が揺れ動き、頬を包む手が震える。



「再会する度逃げられ、拒絶され、別れを告げられる。この哀しみがお前に分かるのかよ」



……十夜。


なんでそんなに……。



「……真実を知って俺がどれだけ悩んだか、お前に分かるか……?」



そんなに、泣きそうなの……?



「お前の為に一度は離れようとした」


「……っ」


「鳳皇と獅鷹が争う所を見たくなくて、お前が真実を告げた事も分かってた」



嘘……。



「……だけど、駄目だった。俺はお前を離してやれない」


「とぉ──」


「どれだけ時間が経っても俺の中から消えない」


「………っ」


「お前の顔が、消えない」



握られた右手が十夜の手に引き寄せられて、指にそっとキスが落ちる。


何度も何度も指に落ちてくるその温もりに、心臓が言葉では言い表せない程強く高鳴った。


心音が思考を邪魔して、もう何も考えられない。

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