Ri.Night Ⅲ

「とぉ、や……」


「……泣くな」


十夜の親指があたしの目下をそっと滑り、涙を拭う。


だけどそれさえもあたしの涙腺を刺激して。


涙は止まるどころか更に流れ落ちていく。




無理だよ。止めるなんて無理。


だって、あたしを見下ろす漆黒の瞳が優しすぎて。


あたしに思い出せと言わんばかりの口調が優しすぎて。


何度も何度も涙を拭うその指が優しすぎて。



「……泣くな。お前に泣かれると困る」


その言葉が優しすぎて。


涙なんか、止まる訳がない。



「……十夜の、せいだよ」



やっと出たのは十夜を責める言葉。



「……そうだな。お前を泣かせているのは俺のせいだ」



けれど、あたしは十夜をそういう意味で責めたんじゃない。



「……違っ…、」


「いい。全て俺のせいにしてもいい」


「………っ」


「それで、お前が俺の傍に居るのなら」


「十、夜……」


「──お前の心が手に入るのなら、」


「……っ、」



再び十夜の両手があたしの頬を包み込む。



「いくらでも俺を責めろ」



……十夜、それって……。



「だから、もう離れるな」



それって……。





「……好きだ」


「………っ」


「お前の事が好きだ」


「とぉ……」


「お前しか、いらない」


「……ふ…っ、……ぅ」



……う、そだ。こんな事、こんな……こと……。



「とぉ……」


十夜の切なげに見下ろす瞳と震える両手を直接感じて、もう名前を呼ぶ事すら出来なかった。


名前を呼ぶよりも先に、直接十夜を感じたかった。


今の言葉を十夜に触れて確かめたかった。


本当に十夜から言われたのかを実感したかった。

< 306 / 368 >

この作品をシェア

pagetop