Ri.Night Ⅲ
「とぉ、や……」
「……泣くな」
十夜の親指があたしの目下をそっと滑り、涙を拭う。
だけどそれさえもあたしの涙腺を刺激して。
涙は止まるどころか更に流れ落ちていく。
無理だよ。止めるなんて無理。
だって、あたしを見下ろす漆黒の瞳が優しすぎて。
あたしに思い出せと言わんばかりの口調が優しすぎて。
何度も何度も涙を拭うその指が優しすぎて。
「……泣くな。お前に泣かれると困る」
その言葉が優しすぎて。
涙なんか、止まる訳がない。
「……十夜の、せいだよ」
やっと出たのは十夜を責める言葉。
「……そうだな。お前を泣かせているのは俺のせいだ」
けれど、あたしは十夜をそういう意味で責めたんじゃない。
「……違っ…、」
「いい。全て俺のせいにしてもいい」
「………っ」
「それで、お前が俺の傍に居るのなら」
「十、夜……」
「──お前の心が手に入るのなら、」
「……っ、」
再び十夜の両手があたしの頬を包み込む。
「いくらでも俺を責めろ」
……十夜、それって……。
「だから、もう離れるな」
それって……。
「……好きだ」
「………っ」
「お前の事が好きだ」
「とぉ……」
「お前しか、いらない」
「……ふ…っ、……ぅ」
……う、そだ。こんな事、こんな……こと……。
「とぉ……」
十夜の切なげに見下ろす瞳と震える両手を直接感じて、もう名前を呼ぶ事すら出来なかった。
名前を呼ぶよりも先に、直接十夜を感じたかった。
今の言葉を十夜に触れて確かめたかった。
本当に十夜から言われたのかを実感したかった。