Ri.Night Ⅲ
こうなったら“あれ”しかない。
『それ以上口開いたら遥香さ──』
「わぁー!!分かった分かったストップ!!」
フッ、勝った。
あたしに楯突くなんて百万年早いっつーの。
わたわたと不審な動きをする色ボケ遊大にベーッと舌を出してやった。
ふふふ。遊大の弱味握っちゃったー。
さぁーて、これから楽しくなるねー。
遊大をからかう材料が出来て、ムフッと笑いが込み上げる。
「凛音」
『……ん?』
笑いを堪えながら階段に足を掛けようとした時、隣にいる優音が“あたし”の名前を呼んだ。
不思議に思いながら顔を上げると、優音は眉を潜めながらあたしを見下ろしていて、そのまま目線を降下させていく。
『……っ、』
その視線を辿っていけば、繋がれているあたしと優音の手が目に入って、瞬時にその意味を“理解”した。
“あの人”の顔が脳裏に浮かぶ。
それがあまりにも鮮明すぎて、繋いでいた優音の手を思いっきり振り払ってしまった。
『ご、ごめん。男同士なのに……』
無理矢理笑顔を作り、優音の返事も聞かずに階段を駆け上がる。
それが余計に思い出す事になるとも知らずに。
“危ねぇから一人で上がんな!!”
『……っ、』
脳内で響いた怒鳴り声にビクッと身体が震えて、バランスが崩れる。
「リン!」
慌てて手すりを掴み、踏み止まった。
『……っ、こう……』
今、煌の声がした……。
ううん、違う。そんな筈ない。
ここは獅鷹の倉庫だ。煌はいない。
居る筈がない。
“落ちるから一人で上がんなって言ってんだろ!下見て歩け!”
毎日のように言われていた言葉が、走馬灯のように駆け抜けていく。