Ri.Night Ⅲ
「そういや、貴兄見かけたか?」
優音が冷蔵庫から持ってきたコーヒーを凌に手渡して、「お前はこれな」といつもの梅アイスを差し出してきた。
こっちに帰ってきてから一度も食べていない梅アイス。
これを見ると嫌でも彼等を思い出すから食べてなかった。
「あぁ、居たよ。けど慧さんと話し込んでたから話しかけなかったんだ」
凌のその言葉に、持っていたアイスを落としそうになって、慌てて持ち直した。
さっきの貴兄と慧くんの会話が脳裏に蘇る。
“鳳皇が近付いて来てる”
あの言葉が、頭に焼き付いて離れない。
「あれ?凌来てたのか」
「貴兄、慧さん」
タイミングが良いのか悪いのか、幹部室に入ってきたのは話題の二人で。
二人はソファーへと腰を下ろし、凌と談笑し始めた。
あたしは二人の会話を盗み聞きしたせいなのか何となく気まずくて、持っていた梅アイスをパクパク口に入れてアイスに夢中になっているフリをした。
「凛音」
けど、すぐに話しかけられて、必死に動かしていたスプーンを止めて顔を上げる。
視線の先には、貴兄の呆れた顔。
多分、あたしが必死になってアイスを食べているからだろう。
「優音から聞いたと思うけど、皆潰れたから走りが無くなった」
「……うん」
さっきの会話なんて感じさせないほど穏やかな喋り方。
いつもの貴兄。
「どうする?帰るか?」
バイクの鍵をブラブラと揺らしながら何事もなかったかのように笑う貴兄にどうしようもなく胸が痛んで。
「うん、帰る」
帰りたいと、本音が出た。
「じゃあ帰るか」
今までの他愛ない会話の裏にも、きっとあたしの知らない事が沢山あったのだろう。
貴兄は獅鷹の総長。
“相手”の事は当然調べている筈。
だから、慧くんの元に情報が入ってきたんだろう。