Ri.Night Ⅲ
なんで……なんで此処に貴兄が居るの?
さっき喧嘩してた奴等は?
突然現れた貴兄にフッと足の力が抜けて足がもつれそうになった。
けど、十夜が足を止めたお陰で転ぶのは免れ、体勢を整える。
顔を上げた瞬間目に入ったのは、貴兄を見つめる十夜の瞳。
「お前……、なんでお前が此処に居る?」
そう小さく発したのは十夜ではなく目の前に居る煌で。
煌が今どんな顔をしているのかなんて、顔を見なくても想像がついた。
煌の隣に居る三人は、突然現れた貴兄を愕然とした表情で見ていて、口をパクパク開閉させるだけで誰も声に出せていない。
当然だと思う。
この状況で獅鷹の総長が現れるなんて誰も思ってなかっただろうから。
「桐谷、リンを離せ」
そう言って、十夜に鋭い睨みを利かせながら此方へとゆっくり歩いてくる貴兄に皆が一歩後ずさる。
あたしと交わる事なく真っ直ぐ十夜に向けられている貴兄の視線。
けど、向けられている十夜は無言のまま何も答えない。
十夜は今、どんな顔をしているの?
どんな顔で貴兄を見てるの?
コワイ。
十夜の顔を見るのがコワイ。
全てを見透かされているようで、コワイ。
コワくて後ろを振り返られない。
「“リン”」
「………っ」
突然煌の口から発せられた自分の“名前”に、ドクンと心臓がとび跳ねる。
「それ、誰の事だよ」
……もう、何も考えられなかった。
今の状況に頭が追い付いていかない。
ただ理解しているのは鳳皇と獅鷹総長が顔を合わせてしまったという事だけで、この状況をどうすれば良いのか分からない。