レンタルな関係。【番外編】

 別のお客様の部屋を回って、仲居室に戻ってしばし休憩。


「栄莉ちゃん、さっきのお客様たち大丈夫だった?」

「はい、大丈夫みたいです」

「到着したときはどうなることかと思ったけどねぇ。流血事件になるんじゃないかと焦ったよ」


 額の汗をぬぐった青山さんは、ガハハっと笑った。


「学生さんかね。うちの息子と同じくらいだ。いいねぇ、彼氏彼女で旅行ってさ。アタシも昔に戻りたいよ」

「あはは」

「栄莉ちゃんはどうなんだい?」

「え? 私ですか?」

「彼氏とかいないのかい? あ、余計なお世話とか言わないでよ」

「か、彼氏ですか? いないです…」

「好きな人は? あ、しつこいとか言わないでよ」

「す、好きな人も、いないです…」

「あらま。もったいないねぇ」

「はぁ」

「ま、恋はめぐり合わせだからね、そのうちいい人みつかるさ。若いんだしね。アタシも第二の恋を始めたいよ」


 ガハハっ。

 青山さんは大きな胸をそらしてまた笑った。


 恋、か…

 そういえば、してないな。

 仕事も忙しいし…


 高校時代、同じ部活の先輩に恋してたけど。

 結局何にも言えないまま卒業していっちゃったもんなぁ。


 メルアドは教えてもらったけど、

 勇気が出なくて一回も送ってないし…


「はぁ… 恋、かぁ」


 私にできるのかな、恋、なんて。

 何だか怖くて。

 仕事も満足にできない私だもん。

 恋も…うまくいかないんだろうなぁ。


「どれ。仕事に戻るかね」

「はい」

「さっきのお客さんたち、部屋食だから頼むよ。運ぶ途中でこぼしたりしないようにね」

「はい、気をつけます!」

「全部屋分のお客様に苦手な食べ物がないか確認して、料理長さんに報告してちょうだいね」

「はい!」

「困ったことがあったら、私にすぐに報告するんだよ。お客様に迷惑はかけらんないからね」

「はい!」


 いい返事だねぇ、と笑った青山さんと一緒に立ち上がって、

 私は、流川さんと唯衣さんの部屋にむかった。


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