sinner
会わない間、わたしは寂しさからちゃんと抜け出せていた?
縋ってしまった相手と、ちゃんと始められる?
こんなの、いいの?
「……だって」
「うん」
まだほとんどを知らないけど、今、決断をするには充分なくらいのこの人は知っている。
わたしは知ってしまっているんだ。
一度諦めた人を手に入れちゃったら、わたしはもう……
「失くすのが怖くて、どうしたらいいか……」
わからないよ。
「――うん。そっか」
泣いてしまいそうだと、幸せだと、震えた声が彼からする。恐る恐るといったような、頭のてっぺんに、あかぎれだらけの大きな手のひらを感じた。
その手が際限なく優しいのは知っている。花をいつも愛でていた。わたしにもそうしてくれた。
知らないことばかりなのに、震えるなんてらしくないと思ってしまう。
その声は、震えたまま、わたしに今度だと言った約束を果たした。
「ずっと、――ずっと、好きだったんです」
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