sinner
三分程の、新たなお隣さんとのやりとりも終わり、こちらは独り暮らしの玄関にきっちり施錠してからベッドに倒れ込んだ。
このまま寝てしまいたいのは山々だけど、ベランダの植物たちの世話をしていない。けどまだ動きたくない。
「……」
そういえば、と意識を浮上させる。
寝返りをうってみれば顔に当たる、右手に持ったままだったお隣さんからの挨拶の品を思い出した。がさがさと中身を開けて、それを片付ける理由に動きだそうと考える。包装を解いてみれば日本茶で、一杯分ごとのティーバッグタイプだった。
ひとつ、封を開けて呼吸をする。まだ新茶の季節ではなかったけれど、真空パックというものは優秀だ。途端にあの、清々しく好ましい香りが肺に満ちていく。
多少覚醒してベランダに出てみれば、お隣さんからは、先程の挨拶のときよりも優しさと甘さの増した声が、楽しそうに響いてきた。
同棲って、面倒臭くさそうなのにな……。
しばらくお付き合いというものから遠ざかっていた自分には考えられない。前の彼女とも、同棲以前の段階で億劫になって別れてしまったし、きっと自分には不向きなんだろう。
丹精込めて愛情を注ぐのはむしろ好きなほうだ。ただ、過剰に、返されることが少し鬱陶しい。ぼくが相手から欲しいそれは、どうやらずいぶん世間より低い域にあるらしい。
君たちみたいに、花開く姿を見せてくれるくらいがちょうどいいんだけどな。
なんて、しゃがみ込み、ベランダの植物たちに埋もれると、僕は充足感に満ちていった。