sinner
この、同棲カップルとの隣人関係は三年ほど続くこととなる。
同棲が、同居、に変化し、もっと希薄で薄情な関係になり……やがて二人が別れるまで。
それでいい、良かった。もうこれで彼女のあんな泣きそうな顔や、煙草を吸う仕草が様になっていく過程なんか見ないで済む。
誰も望んでいなかったよ、君のそんなふうになっていく姿は。それは、認めたくなかっただろうけど彼女自身も。
「……ぼくは、こんなに馬鹿なやつだったのか……」
自嘲と共に、彼女のことを、そんなふうに憂いてしまうようになったのはいつからか――。
――いつからか、ぼくは、彼女に対して恋愛の感情を抱くようになっていた。
なんて最低なんだろう。
きっとぼくは、可哀想な彼女を見て好きになってしまった節もあって。
きっとぼくは、ぼくが彼女を好きになってから送り始めた花のお裾分けに対する見返りが物足りなくなって。
なんて、身勝手なことか。
こんな執着が自身にもあるのだというくらい足りなくなった。
煩わしかったはずのものが、今では欲しくて欲しくてたまらないなんて、なんてことか。
彼女と初めて会ったときに見た、あの真っ白なつむじのように、それは初めての感情ばかりで。
最近はもう、どうやってお隣の彼女と顔を合わせていいかわからない。
「こんばんは」
「――、こんばんは」
なのにぼくは、まるで花の蜜に吸い寄せられるミツバチのように、彼女が寛ぐベランダに偶然を装って顔を出す。
そんな、夜を何度も繰り返してきた。