sinner
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定期的に訪れなければいけない取引先からの直帰すがら、とあるインテリアショップの前で足を止める。その店の店長が海外で直接買い付けてくる商品の中には職場のディスプレイに合うものが揃っていて、今日もそういう新作をウインドウ越しに見つけてしまった。
時間を確認するとそろそろ閉店時間で、店の奥にいるだろう顔見知りになった店長に話だけ通しておこうかとショップのドアを開こうとしたところ、覚えている顔の男を店内に見つけた。
思わず、後退をしてしまう。
男がぼくを覚えているかは知らないし、覚えていたとしても、この風景の中で一致するほどの認識かは不明だけど、盛っていたマスクで顔を覆った。
男と顔を合わせるのは時折かぶる帰宅時で、太陽の下ではまだないかもしれない。
最初に挨拶をしたのは夜の少し前だった。
こんばんは、宜しくお願いします、ぐらいしか交わしていないお隣の、同棲中の男のほう。
そうして今、ぼくの視界に映る男の傍らには……彼女じゃない女がいた。小さくて小さくて、頬や唇のぷくりとした可愛らしいふわふわとした、綿菓子みたいな。
その甘さを知ってしまっているような面持ちで女と談笑する男の手にはマグカップ。コバルトブルーのそれはとても使い勝手がいい、このショップの人気商品でもある。
男がそれを選ぶと、女は先ほどよりもさらに甘ったるくはにかんで、自分は色違いのベビーピンクのマグカップを手に取った。そうしてそれをレジに持っていき、お互いにプレゼントだとでもいうようにラッピングしてもらっていた。
それらを最後まで見届け、まるで恋人同士だと、位置付ける。
以前からこの駅前で何度か見かけた同じ男女の、段階を踏んで得たらしい、恋人同士の光景だった。