振った男
好きな人に抱かれる幸せというものを感じた。


「もっと力を込めて…」


あの子よりも私を選んでくれて、抱いてくれた。だから、もっと私を求めて欲しかった。壊れるくらい抱き締めて欲しかった。一樹の好きなように抱いて欲しかった。


「一樹、大好き」


覆い被る一樹をしっかり抱きしめた。




付き合って1ヶ月経った頃、初めて一樹の家に行った。私を家族に紹介すると言ってくれて、嬉しかった。


「大丈夫だよ。そんなガチガチにならなくても。普通の家だし」


「でも、緊張する」


「あ、一樹!」


家の前で、一樹が私を落ち着かせようと軽く肩を叩いたとき、背後から一樹を呼ぶ女の人の声が聞こえた。


「小夏」


一樹の口から出された名前は一樹の好きな女の名前だった。正しくは好きだった人かな。今は私のことが好きなはずだし。


「どこか出掛けていたの?あ…彼女さん?」


「うん、生田舞花さん。舞花、こっちは同級生の小夏」
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