振った男
「どうも、はじめまして。深見小夏といいます。ちょっと、一樹。紹介するなら、私にもさんをつけてよ」


「今さら、さんをつけてなんか呼べないから」


小夏さんの突っ込みに一樹は、ヘラっと笑った。私は、遠慮のない二人の関係に何か引っ掛かりを感じながら、「はじめまして」と微笑んで、頭を下げた。

小夏さんは、家に帰る途中でただ一樹を見かけたから、声を掛けただけのようで、アッサリと手を振って、私たちから離れていった。

一樹は振り返ることもしない小夏さんの後ろ姿を見えなくなるまでずっと見ていた。

もしかして、まだ好きなのかな。小夏さんを見つめる姿を見て、切なくなった。

緊張で高揚していた気持ちはいつの間にか落ち着いていた。こんなことで落ち着くなんて…。


「こちらが生田舞花さん。舞花、俺の母さんと妹の久実」


「はじめまして、生田舞花です」


「どうぞ。あがって、あがって～」


きれいなお母さんと高校生のかわいい久実ちゃんが出迎えてくれた。

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表紙・目次

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