そこにアルのに見えないモノ
俺は親父に言った。
「結婚は断って来て当然だ。そんなの娘が可愛かったら当たり前だ。
最初から結婚の事はどうでも良かったんだ。
技術が手に入ればいいんだろう?明日、話を勧めるよう、連絡を取ってくれよな」
「解っている」
だが翌日、望月は留守だと言う。…昨日から行方が解らないと。
そして、最悪の報告を受けた。
望月が自殺したと。
条件が飲めなくなった以上、この話は御破算だと、…早まったのだ。
…俺は、俺の発した軽率な言葉が…こんな自体を生むなんて…。取り返しのつかない…、何て事を…。
俺は、経営者の責任感というものを何も解っちゃいなかった。
命をかけて従業員、家族、工場を守ろうとする。そんな真の経営者の心を。全然解っていなかった。
弁護士から報告を受けた時、何故すぐ、結婚は無くても大丈夫だと連絡を取らなかったんだ…。それさえしていれば…。
追い込まれた人間の心理を、…見て見ぬ振りをしていたのか…。
…何も解っちゃいなかった。