そこにアルのに見えないモノ
「そうなんですか。
それぞれの思ってる事が上手く伝わらないのは、もどかしいですよね」
「そうなんです。相手の言葉にお互い耳を傾けて、譲るところは譲る、出来ない事は出来ない。
決まりがあればいいんでしょうが、人によって違いますし、感情論になってしまうと難しいです、拗れてしまって」
「その人とはしばらくは冷却期間、といったところですか?」
「それも必要ですね。まあ、仕事なんで、あまり悠長にもしていられませんが」
「そうですね」
「何だか有難うございました」
「え?」
「こうして…、直接仕事に関わりのない人に聞いてもらって、少し楽になりました。
関係のある人間は、どうしても、何かしら意見を言いたくなりますからね。
ただ聞いてもらえるというのは、とても有り難い事です」
「私は何も。今夜、偶然会って、偶然お話を聞いただけです。
大した事では無いじゃないですか」
「それでも僕は、多少なりとも晴れやかな気持ちになれました。
だから、有難うございます、です」
「は、あ…」
「…まだいらっしゃいますか?
帰るなら送りますよ?
まあ、ほぼ知らない男の車に乗るのは抵抗があると思いますが、大丈夫と思われるなら送ります」
私、いきなり試されてる?
ここはどうなんだろう。断ると不審者扱いしてる事になるの?
簡単に乗るのも、そんな女だと思われる?う〜ん…。