そこにアルのに見えないモノ


離れた彼は、顔をジッと見つめていた。
瞳が悲しそうに揺れていた…。

「どうしても駄目ですか?」

「…ごめんなさい」

スルリと彼の腕の中から抜け出し、駆け出した。

彼は追って来なかった。


はぁ…。
アパートに帰り、濡れたコートを脱ぎ、ペタリと座りこんだ。しばらく動けなかった。
やっと立ちあがりタオルで髪の雫を拭った。

なんて事…。あんな事になるなんて…。
掻き乱さないで欲しい…そっとしておいて欲しい。
彼にも言ったけど、今の私は相手が誰でも同じ。
自分に恋しようという気持ちが無いのだから、好きも嫌いも無い。

今は、働いて、働いて、借金を返す事だけ。
そんな私に愛とか恋とか関係ない。
彼の言うとおり。
…もう、高台にも行けない。
はぁ……。

これから、何処でボーッとしよう…。
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