そこにアルのに見えないモノ
「えーっと、そうだな…取り敢えず、ビールで」
「ぁあっ」
「え゙っ?いきなり、何…」
こ、この人。
「あ゙ーーっ!す、すいません。わーっ。すいませんでした」
「おっ、どうした。どうしたんだ?」
お客様の大きな声に反応して総一郎さんが慌てて傍に来た。
「…あの、この方…この前の夜、腕を掴まれた人です…」
総一郎さんの耳元で囁いた。そうか、と小声で頷いた。
「うわっ、本当、すいませんでした。あの夜はちょっと飲み過ぎてしまいまして…。記憶はちゃんとあるんですよ。酔ってはいましたが。
変に絡んで怖い思いをさせてしまって、本当、申し訳ありませんでした。この通り、すいませんでした」
土下座しそうな勢いで頭を下げてくれるものだからこちらが恐縮してしまうくらいだ。別に大事にするつもりもない。
「もう止めてください。大丈夫ですから。ビックリしただけです。大丈夫ですよ」
「…本当に?」
「はい、本当に大丈夫です」
「おいおい渡部君…。カオルちゃんになんかしたの〜?変な事したら僕が許さないよ〜」
「いや…それは…」
「アキヒコさん…大丈夫ですから。何でも無いんですよ。ね、総一郎さん」
「カオルちゃんがこう言ってますから、気になさらないでください。
渡部さんとおっしゃいましたね。これからもカオルちゃんの為にも、ご贔屓に」
「それは勿論。当然です」
ドンと一つ胸を叩いた。
「俺も…シンジさんて、呼んで貰おうかな…」
頭を掻き掻き言う。
「渡部君、君〜、失礼なことをしておいて、それはまだ厚かましいな〜」
「アハハハハッ」
世のお父様方は、日々色々大変だ。