そこにアルのに見えないモノ
その夜、俺は小さな自宅兼事務所の自室で、デザイン画を書いていた。
やっとゴーサインを貰って、直しをしていたところだ。今夜のうちに仕上げてしまいたかった。
ブーブー…
震える携帯が、着信だと知らせていた。
…こんな時間に誰だよ。出ないでおこうか。そうは思っても仕事関係なら無視はできない。
…この番号は?…誰なんだ?少くとも仕事関係者ではないと思われた。
時間も時間だし無視するか…。
しかし……一向に切れそうもない。放り出した携帯は机の上で少しずつ場所を移動していた。
……仕方ない…、出てみるか。
「はい?黒崎ですが…」
「夜分申し訳ありません、望月と申します」
モチヅキ…。一瞬で昔に引き戻された。
…望月、今、望月って言ったか?…あの望月か?
何故この番号が解った?
……名刺?店?、…この声。あ、まさか…。
話し方…。そういうことか。
っ。
コレハ、ドウイウコトダ…。
あの子は…望月の娘なのか?
…なんて事だ。…俺は。
これは一体…。あぁ…なんて事だ…。
俺は、高台で会った事、告白した事、酔っ払いから逃がした事、その事を告げた。
警戒していたようだが、“別人”の黒崎だと思って安堵したようだった。
だが、俺は言った。
Kurosakiの息子の、黒崎凌平だと。