そこにアルのに見えないモノ


二人でチーズインハンバーグを食べていた。

大した会話はしないのだが、食べ物が喉を通らないなんて状態でもなかった。

多分、黒崎も似たような状態なのではないかと思った。

何とも言えない不思議な感じと、どこにも隠せない違和感。

普通に食べ終わり、店を出た。



再び車に乗ると、もう、もう一人の自分が押し寄せて来ていた。


そろそろ高台に着く。

思わず溜め息が出る。

もう、知らなくていい、知りたくないと思う自分が居始めている。


車を降りて柵の前まで歩く。
凄く久しぶりな気がする。

…明るい。足元もよく見えている。
空を仰ぐ。

今夜は満月。

星は確かにそこに在るのに、見えない。

静かだ。

黒崎が静かに話し始めた。

「結婚の事、僕が言ったんです、親父に。
望月さんの工場の負債を見る時、僕は丁度、跡を継げと言う親父と、ゴタゴタしていました。
親父の気まぐれが許せなかったんです。
もう、社長になる人間は決まっていたんです。なのに、今更でした。

望月さんには娘さんがいるという、親父の話を聞いて、結婚する事も条件に入れたんです。
そうしたら、真面目に継ぐからと。

僕に取っては重大ではなかったんです。

こんな無理な事は断って来るだろう。そう思っていましたし、それでも、望月さんの工場の面倒は見るはずだった。

行き違ったんです。

言い訳に聞こえるかも知れませんが。

< 44 / 64 >

この作品をシェア

pagetop