そこにアルのに見えないモノ
二人でチーズインハンバーグを食べていた。
大した会話はしないのだが、食べ物が喉を通らないなんて状態でもなかった。
多分、黒崎も似たような状態なのではないかと思った。
何とも言えない不思議な感じと、どこにも隠せない違和感。
普通に食べ終わり、店を出た。
再び車に乗ると、もう、もう一人の自分が押し寄せて来ていた。
そろそろ高台に着く。
思わず溜め息が出る。
もう、知らなくていい、知りたくないと思う自分が居始めている。
車を降りて柵の前まで歩く。
凄く久しぶりな気がする。
…明るい。足元もよく見えている。
空を仰ぐ。
今夜は満月。
星は確かにそこに在るのに、見えない。
静かだ。
黒崎が静かに話し始めた。
「結婚の事、僕が言ったんです、親父に。
望月さんの工場の負債を見る時、僕は丁度、跡を継げと言う親父と、ゴタゴタしていました。
親父の気まぐれが許せなかったんです。
もう、社長になる人間は決まっていたんです。なのに、今更でした。
望月さんには娘さんがいるという、親父の話を聞いて、結婚する事も条件に入れたんです。
そうしたら、真面目に継ぐからと。
僕に取っては重大ではなかったんです。
こんな無理な事は断って来るだろう。そう思っていましたし、それでも、望月さんの工場の面倒は見るはずだった。
行き違ったんです。
言い訳に聞こえるかも知れませんが。