そこにアルのに見えないモノ


貴女のお父さん、望月さんがうちの会社を訪ねて来た時、親父と僕は挨拶回りでいませんでした。

顧問弁護士が話を聞いていたのです。

結婚は無くてもこの話は大丈夫だと、伝える事が遅れました。

その結果、望月さん、貴女のお父さんを自殺に追いやってしまった。

総ては僕の軽はずみで無責任な言葉が招いた事です。
晶さん、七年越しのお詫びになって申し訳ない。
この通り、申し訳ない。謝っても取り返しがつかないのは解っています。
でも申し訳ありませんでした」

黒崎は迷うことなく地べたに体を伏せ、土下座する。
額をつけ、上げようとはしない。

「…もういいです。頭を上げてください。
もういいんです」

私は黒崎の腕を取り、立ち上がらせようとする。

黒崎は伏せたままだ。

「もう、止めてください。お願いします。
止めてください、解りましたから」

もう一度腕を取り、引き上げる。
上半身だけ何とか起こす事が出来た。

私は黒崎を抱きしめていた。
自分でもよく解らない。でも、もう、いい…。

「…もう、止めてください。
貴方の心、解放してあげてください」

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