そこにアルのに見えないモノ
鍵を開け部屋に入る。
手を引かれてソファーに座らされた。
気がつけば、いつの間に…、マグカップの珈琲を手渡されていた。
「まあ、飲むといい」
カップ、温かい‥。
座っていたソファーの隣に総一郎さんも座った。
「近いか?」
「大丈夫です、…今更です」
「そうか。
カオルちゃん、いや、晶ちゃん、黒崎さんは黒崎さんだったんだな…」
「総一郎さん…」
「連絡、晶ちゃんからしたんだね」
「…はい」
「そう…」
総一郎さんは珈琲を飲んでいる。
もうこれ以上聞くつもりは無いらしい。
マグカップをテーブルに置く。
「真面目な話だ、晶ちゃん。
大人には大人の忘れ方というのもある。
…俺を利用して見るか?」
私のマグカップを取りテーブルに置く。
頭を撫でられる。
「…涙、止まったか?
どうして俺の処に来た…」
解らない、ただ総一郎さんに会いたくなった。
「俺に会いたくなったか?」
「はい…。気がついたら自然に足が向いていました」
静かに抱きしめられた。
「…総一郎さん」
「どういうつもりだ?自分の事、解ってるか?
俺に会いに来て、家について来て…。
投げやりになったか?
腹括ったけど弱虫に成っちまったか?」
「…総一郎さん」
またウルウル涙が溢れ出た。