そこにアルのに見えないモノ
衝動
黒崎さんと最後に会ってから、どのくらい経ったのだろう…。
連絡先、解らない事も無いだろうけど、電話が架かってくる事も無ければ、お店に来ることも無い…。
あのまま、何だか曖昧なままで良いのだろうか…。
仕事が忙しいのかも知れないけど。
このまま終われない…。
カランカラン。
「いらっしゃいませ」
「…こんばんは」
っ…黒崎さ、ん。
「いらっしゃいませ」
総一郎さんがスッと前になる。
黒崎さんはカウンター席に迷わず腰掛ける。
隣の空いた席にマフラーと鞄を置く。
おしぼりを出しながら、総一郎さんが尋ねる。
「どうぞ。…何に致しましょう?」
「バーボンを、ロックで」
「畏まりました」
「どうぞ」
コースターを置きバーボンの入ったロックグラスを出すと、チェイサーとチョコレートを置く。
「どうも」
ただのお客で来たのか、やはり何か話があって来たのか。
普通のお客様とは違う沈黙が流れる。
服装や鞄から、仕事帰りのようにも見てとれた。
「今日は仕事が一つあがって、一人お疲れ様会です」
「そうですか、それはお疲れ様でした」
総一郎さんはグラスを拭きながら静かに相手をしている。