あしたの音色
痣を顔に患った私を見て、あなたは。
泣いた。
泣いた、声をあげて泣いた。
あなたが流す涙は、とても。
とても、綺麗だった。
泣かないで。
私は大丈夫だから。
いつか、あなたは、安全なところに行けるから。
だから、泣かないで。
あなたの悲しむ顔は、私にはつらいわ。
やっと、政府の番犬も気がついた。
今までどうしてなにもしなかったんだろう。
あの人に、刃が向けられたのに。
響いていく恐怖に染まった母の声。
煩わしいものを見下すような、冷たい目で私を見る父。
どうしてこの人たちは生きているのだろう。


「“命”は、儚いんだよ。」

誰かが言ってた。
他人事のような戯言だと思ってた。

昔、大切にしていた、飼い猫が死んだとき、私は泣いた。
あの時、どうしてあんなに泣いたのか、自分でもいまだ分からない。


命の儚さを、私は知らない。



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