キミが幸せに。

「あのさ、実はあたし来月のテストヤバそうなんだよね。赤点取っちゃいそうで……。
だからしばらく夜の電話とかできなそう」


あたしは初めて湊太に嘘を吐いた。


「マジかよ。どの教科が分かんないんだよ」


「ほぼ全部かな?前回のテストもさんざんでお母さんに怒られたから今度こそ挽回しないとお小遣いなしになっちゃう」


前回のテストがひどかったのも、お母さんに怒られたのも本当だった。


「土日は?少しの時間でもいいなら勉強付き合うって」


「ううん、一人でやる。湊太が一緒だと楽しくて勉強どころじゃなくなっちゃいそうだから」


「そっか……。分かった。梨子がそういうなら」


テストが終わった後、湊太のサッカーの試合がある。


あたしのことを考えなければ、湊太はサッカーに集中できるはずだ。


今あたしができることは、湊太にサッカーに集中してもらうこと。


「あたしはテスト頑張るから、湊太はサッカー頑張ってね!!」


「おう。っていっても、俺もテストあるけどな」


「あっ、そうだった!!じゃあ、どっちも頑張って!!」


「何か適当な言い方だな~」


苦笑いを浮かべる湊太。


「そんなことないって~!」


手を繋ぎながらたわいもない話に花を咲かせる。


この幸せな時間がずっと続いていくと、この時のあたしは信じていた。
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