オフィスの恋愛事情
それでも、私の不安は全然消えなくて、息が苦しかった。




「ほら、行こう」




私は、差し出された、悠斗の手を取った。




外に出ると、空気がまだ、冷たかった。風が強い。もう3月も終わりなのに。



橋を超えたところに、満開の桜が、満月に照らされて、輝いていた。




「ああ、この風じゃあ、今夜で、桜も見納めかな」





冷たい風が私たちの前を吹き向けて、桜の花びらが舞った。




桜の花が咲く頃になったら、一緒にお花見にいこうって、言ってたのに。



悠斗はもう忘れている。



こうして、偶然によって果たされた約束でも、信じていて、いいの?



丁度、一列に並んだ桜並木の前を、通りかかったところで、悠斗は、私の髪を一房、手にした。




「花びらが、付いてる」



そう言った悠斗の顔は、悲しみで、歪んでいた。



「俺、みなおのこと、大事にしようと決めたのに、悲しませちゃったね」
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